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大阪高等裁判所 昭和47年(ネ)1189号 判決 1973年5月28日

破産者株式会社中島組破産管財人

控訴人

北山六郎

右訴訟代理人

山本弘之

外二名

被控訴人

本州製罐株式会社

右代表者

柏村茂

右訴訟代理人

石橋利之

外二名

主文

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し金一二万七五〇〇円およびこれに対する昭和四三年五月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一、控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二、当事者の主張および証拠関係は、当審において別紙当事者の主張のとおり述べたほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

当裁判所の認定する事実関係は、原判決理由一項および二項1記載のところと同一であるから、これを引用する(ただし、二項1の一行目に「約束手形債権」とあるのを「約束手形」と訂正する。)。

右事実関係によれば、被控訴人は、破産者株式会社中島組(以下、破産会社という。)の支払の停止を知つて、破産会社に対する本件手形債権を取得したものであるから、破産法一〇四条四号本文により、破産債権たる右手形債権をもつて、破産会社に対する本件請負代金債務と相殺することは許されず、被控訴人主張の相殺の意思表示はその効果を生じなかつたものと解すべきである。

被控訴人は、破産会社の支払停止前に発生していた訴外株式会社西尾商店に対する売掛代金債権の支払のために同訴外人から本件約束手形の裏書譲渡を受けたのであるから、本件手形債権の取得は、同号但書中段にいう「支払ノ停止若ハ破産ノ申立アリタルコトヲ知リタル時ヨリ前ニ生シタル原因ニ基クトキ」にあたり、相殺は有効であると主張する。しかし、右事実関係によれば、被控訴人は、被産会社の支払停止後にその事実を知つて西尾商店から本件約束手形の裏書譲渡を受け、右裏書譲渡行為によつて初めて本件手形債権を取得したものであり、右売掛代金債権は、元来は本件約束手形と直接関係のない権利であつて、右裏書譲渡行為をするについての前提となつた法律関係にすぎないのであるから、右売掛代金債権の存在をもつて、右規定にいう破産債権取得の「原因」と解することはできない。右規定にいう「原因」とは、破産債権の取得を目的とする法律行為自体(停止条件付法律行為や権利移転の予約等)ないしは債権取得の効果を生ずべき直接の基礎をなす法律関係(たとえば、最高裁判所昭和四〇年一一月二日第三小法廷判決、民集一九巻八号一九二七頁の事例である、手形買戻請求権の発生の基礎たる手形割引契約)を指称するものであつて、そのような法律行為がなされあるいは法律関係を生ずるについてのさらに原因ないし前提をなす法律上もしくは事実上の関係までをも含むものではないと解すべきである。これと異なり右「原因」を被控訴人の主張のように広く解するときは、総債権者間の公平な清算をはかるために相殺を制限した法の趣旨に反することとなる。

したがつて、被控訴人の主張は採用することができず、控訴人が被控訴人に対し本件請負残代金一二万七五〇〇円およびこれに対する履行期の翌日の昭和四三年五月一日から支払ずみまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求はすべて理由があるから、原判決を取消して、右請求を認容することとし、民訴法三八六条、九六条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(小西勝 常安政夫 野田宏)

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